Discovery Institute News
目に見えない差別と迫害の手
By: David Klinghoffer
Townhall Magazine
Feb. 26, 2008
インテリジェント・デザイン(ID)理論を支持する老練の科学者が研究を進めるために、安全のため文字通
り変装しなければならないという事態が起こっている。
私の知っているある生物学者は最近、髪を漂白し、ほとんど本人とわからないほどに外見を変えている。彼の風貌と名前をここで明かすことはできない。それは彼が正体を隠して行動しているからだ。最近私が彼に会ったのは、彼がID理論に基づく研究と実験作業の一部を、ある大学で行なおうとしていたときだったが、彼はその大学の名を言わなかった。冬休み明けに研究室に戻るときは、また別
の変装をするつもりだと彼は言っていた。
どんな変装をするのかと聞いてみたが、「それは言えない。言えばせっかくの努力が水の泡だからね」と彼は穏やかに答えた。
彼がそのようにする目的は、IDを敵視する科学者たちに見つけられないようにするためである。もしダーウィニストたちが、このお忍びの生物学者が、同じ大学の教授のゲストとして、自分たちのまっただ中で研究をしていると気付いたなら、彼らは彼を招いた教授に重いキャリア上の代価を払わせる可能性がある。
ダーウィニズムに疑いを持っているので、将来の学者生命が心配だという科学者は、このアングラ世界においでになるとよい。こうした反体制学者に降りかかる運命は、単なる学部のうわさ話では済まされない恐れがある。
ではIDとは正確にどんな理論か? 簡単に言えばそれは、導かれない物的な過程のみによって、この地上の複雑な生命の歴史が果
して生じえたか、と問うものである。IDは、知的な原因が自然界に働いていると考えるのが最上の仮説――ダーウィニズム信奉者も批判者も共に認める科学的証拠を説明する最上の仮説――だと主張する。進化はこのところ熱い話題となっており、2008年の大統領選挙にさえ取り上げられている。マイク・ハッカビー共和党候補は、彼のダーウィン理論に対する批判的だが曖昧な表現の見解について、記者からしばしば質問責めにされている。他方、民主党のヒラリー・クリントン候補は、「ニューヨーク・タイムズ」のインタビューに対し、「私は進化論を信じており、公的な立場にある人々が言っていることのある部分には、あきれて(shocked)います」と、共和党の対立候補に言及して言っている。
私は主導的なID敵視者に対し、ダーウィンに疑問をもつ人たちが、ID理論そのものの長所短所は別
にして、彼らの考えを検証しテストする上で、障碍に直面
することがあるのかないのか、と尋ねてみた。ブラウン大学の生物学者ケネス・ミラーのEメールによる返答は、シュンとさせるものだった――「〈デザイン〉の結論は、ゲノム比較研究、分子生物学、遺伝子発現、および生化学についての、うまく行われた研究から出てくるべきものです。ご承知の通
り、そのような研究を妨げる障碍は全くありません。」
カリフォルニア大学アーヴィン校の生物学者フランシス・アヤラは、強調的にこう答えた――「私は真面
目な科学者や大学当局が、他の誰であれ、よく考案された研究プロジェクトを遂行しようとするのを、妨げるなどということは考えられません。」
ところがこれとは裏腹に、学界のIDシンパたちはみな、科学研究を遂行するのに拘束を感じていると言っている。これらの拘束は、目に見えないペットのフェンスのようなもので、郊外に広い屋敷をもつ人たちが、彼らの敷地から飼い犬がさ迷い出ないように考案した仕掛けに似ている。ペットは特別
の首輪をつけていて、この敷地の周囲に埋設された電線を越えようとすると、電気ショックを感じるようになっている。犬も科学者もすぐにこれを学習する。
4月には長編ドキュメンタリー映画『追放――インテリジェンスは許さない』(Expelled:
No Intelligence Allowed)が一般映画館で公開されるが、これはダーウィニズムに疑問を抱いたがゆえに、同僚によって処罰された科学者たちの物語である。登場人物の一人、進化生物学者リチャード・スターンバーグは、IDに好意的な論文を自分の勤める研究所の、査読付きの生物学専門誌に編集者として掲載したというので、スミソニアン研究所の「国立自然史博物館」を追われた人物である。
US特別調査委員会が2005年、この事件を調査し、スターンバーグ博士のスミソニアン研究所における同僚たちが、彼に対し「敵意ある仕事環境を作り出し…この研究所から彼を追い出そうとする究極の意図をもっていた」という報告書を提出した。彼の監督者である上司は、スターンバーグの信用を傷つける目的で、彼の政治的・宗教的信条について他の館員から聞き取りを行い、博物館は、彼から資料室への鍵を取り上げることによって彼の研究を妨害した。
ダーウィニズム批判に周辺的に関連するだけで、学者生命を絶たれることもある。アイオワ州立大学の天文学者ギエルモ・ゴンザレスがその例である。彼は『特権的惑星』(Privileged
Planet)という共著の本で、宇宙的な知的デザインの事実を科学的根拠に基づいて主張したために、この大学の2006年のテニュア(終身在職権)認定を拒否された。この本は、ダーウィンを論じたものでも生物学を論じたものでもなかった。
彼は教授としての能力を疑われたのか? 実のところは、彼は科学者としての名声と科学論文の質と量
に関する基本的な評価において、同じ天文学部のテニュアを得た同僚たちをはるかに超えていた。彼は、この学部がテニュア取得のために要求する査読付きの学術論文数の規定を、350%も上回って満たしていた。にもかかわらず学部長は、彼のテニュア要求が教授会投票で退けられたと報告、IDがリトマス試験紙であり、「科学教育者としての彼の資格を疑わせるもの」だと言った。
一部の大学では臆面もなく学問の自由を制限している。2005年、アイダホ大学では、生物学者でID主唱者のスコット・ミニックが、教室でダーウィニズムを批判したといって批難の的になった。学長のティモシー・ホワイトは、オーソドックスな進化論以外のいかなる見方も「我々の人生でも、地上でも、物理科学の講義やカリキュラムでも、不適当」だとして退けた。
進化論の見えざるフェンスの効果を感じている学者たちは、3つに区分できる――まだテニュアを得ていない学者で将来の迫害を恐れる者、すでに迫害を受けている者、テニュアを保有している学者で理論上は自由に研究できる者。
テニュアを持たない者たちは、原則として、自分や自分の所属機関の名が明かされないという条件でのみ発言することができる。私はそのような一人の科学者に、彼のIDに対する研究上の関心を自由に追究することができるか尋ねてみた。「全くそれは不可能です。そんなことをしたら面
倒なことになります」と彼は答えた。
その面倒の一部は、彼がまだ見えざるフェンスの電気ショックを経験する前に、ダーウィニズムに批判的なある論文を書き、それがまだネット上に残っていたことだった。彼は今テニュア取得に至る6年の道のり(助教授期間)をほぼ過ぎたところにいる。しかし彼がここに来る前、新しい就職先を探していたとき、「君がここ(別
の大学)で研究者としてもはや必要とされていない理由は、君が論文で表明した見解のためだ」と、直接言われたのだという。
また別の生物学者は、彼のIDに対する関心が知られるや否や、研究室の席を取り上げられたと語った。研究室主任の助手が彼のところへEメールをよこし、予期しなかった「スペース不足」のために、2週間以内に出て行ってもらわなければならない、と通
告してきたという。
「ID批判者は、ダーウィンを批判する研究も自由に行われてよいと言っているが…」と水を向けると、この生物学者は可笑しくてたまらないという表情で言った――「それはとんでもない冗談ですよ。」彼の説明によると、職業的科学というものは「権威によって動かされるもので、科学者は自分の権威をゆるがすものを認めないのです。学者仲間にいい印象を与えればうまくやれるわけで、それが危険にさらされるようなことは望まないのです。」
IDに同調的だとみなされることは、科学者としての評判に傷がつくことを意味する。だから大学の学部や科学雑誌は、ダーウィニズムに疑義を呈する研究や論説を、援助したり発表するのをとても嫌がる。一種の知的麻痺がここから生まれる。
キャロライン・クロッカーは免疫薬理学を専門とする生物学者だが、彼女が今自由にものが言えるのは大学社会へ戻る夢を放棄したからである。2005年、クロッカー博士は、ヴァージニア州フェアファックスにあるジョージ・メイソン大学で、細胞生物学の講義中、学生とダーウィニズムに対する科学的批判の議論を行った。同僚たちがその噂を聞きつけたとき、彼女は最初、進化論もIDも教えることを禁止された。それから後、雇用契約は更新されなかった。
「私はひどいショックを受けました。私は自分が、この論争のどちらにも与していないことが分かるように気をつけていたのです」と彼女は語った。
彼女の物語は、「ワシントン・ポスト」と科学誌「ネイチャー」に取り上げられた。彼女が後に国立衛生研究所(NIH)に研究者職を求めたとき、彼女の評判の方が先回りしていた――「この研究所に関係していたある友人が私に言ったのです、〈応募しても無駄
だと思うよ。君はブラックリストに載っているからね〉と。」
「いたるところにあらゆる人間がいるから、およその様子はわかるのだよ」と、ベイラー大学で工学とコンピューター知能を教えているロバート・マークスは言った。彼の研究上の興味の一つは、コンピューターによる進化のシミュレーションである。追加情報(a/k/a
design)がシミュレーションに含まれていない限り、進化過程はダーウィンが約束したような結果
を生み出すことはない、ということを彼は見出した。
マークス博士はテニュア保持者であり、2003年、大学のイメージを向上させようとするベイラー大学によって、元のワシントン大学から引き抜かれた。彼の最近の著書が、オックスフォード大学出版から出版されることになっている。彼のような立場なら安全なのだろうと思うかもしれない。しかし私がインタビューを申し入れたとき、彼は「弁護士の立会いの元で」という条件で引き受けてくれたのである。
ベイラー大学では、マークスは「思想信条による差別
、学問の自由の侵害、迫害」を受けていると言う。2006年、ベイラー大学当局は、マークス博士に与えられていた3万ドルの基金を取り消した。これは彼の協力者として、有名なID理論家である数学者ウィリアム・デムスキーを招聘するためのものであった。2007年に大学当局は、マークスが開設し、デムスキーや彼自身のID関係の研究を掲載した「進化情報学」に関するウェブサイトを切ってしまった。
たまたまデムスキーは、それ以前に一度ベイラーから追い出されていた。それは2000年のことで、ベイラーの教授会が、大学内にある学術センターの主任としての彼を、解雇させたのであった。他の教授たちの逆鱗に触れたのは、デムスキーのダーウィン進化論批判であった。
デムスキー博士がベイラーの招き戻されることは、当分はないだろう。ロバート・マークスは残っている。しかし彼はキャンパスの雰囲気を、おそらくよその大学にも当てはまるであろう暗い調子で語る。「ここにはIDに興味をもっている人が大勢いることを私は知っています」と彼は言った、「だけど彼らには、手を出さにように忠告しているのです。それはテニュアの機会を危険にさらすから。それで学究生活は終りです。」
(David Klinghofferはディスカヴァリー・インスティテュートの上級研究員。彼の新著How
Would God Vote? Why the Bible Commands You to be a
Conservative (Doubleday)は6月に出版される予定)
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