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悪臭を放つダーウィン進化弁護論

Michael Behe
March 1, 2010

カリフォルニア大学の進化生物学者John Aviseは、Inside the Human Genome: A Case for Non-Intelligent Design(人間ゲノムの内部――非インテリジェント・デザイン論のために)という本を書き、これを最高の学術出版社オックスフォード大学出版から出している。アヴァイズは米科学アカデミーの会員で、数十年にわたって進化と生態遺伝学の主導的な研究者であった。彼は数百篇の科学論文と1ダースの本を書いており、間違いなく科学者的精神の持ち主である。

そうであればこそなおのこと、彼の新しい本が、典型的な夜更けの学生寮の勝手な討論程度の知的レベルしか示していないのは驚きである。その副題が示すように、アヴァイズは、最近のある種の変節的生化学者の主張にもかかわらず、過去何年かの科学によって発見された人間ゲノムの分子的特徴は、いかなるインテリジェント・デザインの痕跡をも示すものでないと主張しようとしている。その議論は混乱し、行き当たりばったりで、粗雑であり、少なくとも普通 の、たとえばアヴァイズ氏自身の、知性をもった人の試みとしては考えられないものである。

アヴァイズは、いわばバントによって3塁を陥れようと試みる。彼はダーウィン進化論でもインテリジェント・デザインでも、ゲノムの機能する部分を説明することはできると主張する。しかし(慈悲深い神がそんなふうに造ったとは思えないから)進化論だけが機能しない部分を説明できるのだと言う。そこで彼は劣悪なデザインと彼が考えるものを指摘し、それこそが、最も複雑な機能する機械はランダムな変異と自然選択によって生じた証拠だと主張する。それについての現実的な個々の実証は必要と考えられていない。実際アヴァイズは、IDの科学的議論についてはほんの通 り一辺の説明をしているだけである。この本の第5章は、大体において私の『ダーウィンのブラックボックス』への(ある意味での)反論に当てられている。しかしこの章でアヴァイズはただ、私の本の還元不能の複雑性の例の一つは、Liu & Ochman(2007)の怪しげな試みを引いて、すべてのバクテリアの鞭毛遺伝子は驚くべき天才遺伝子の子孫だと規定することにすぎない、と説明するだけである。この章の残りの部分はひたすら拒絶することにかかっている。

アヴァイズの主たる議論は、遺伝子は故障することがあり、これが遺伝子病になるということである。彼は、人間の染色体2とこの染色体のいろいろな病気――abetalipoproteinemiaとかWaardenburg症候群など――に対応する領域を示す図を用いている。私の手近には、Mendelian Inheritance of Manに編集された遺伝的新陳代謝病をリストした表がある。彼の議論の全体は、彼の一つの短い言葉にかなりよく要約されているであろう――「Lesch-Nyhan症候群などは、愛に満ちた全能の神によって見逃されるとはとうてい思えない種類のものだ」(p.16) 言い換えれば、これは悪からする神学的議論で、ダーウィンが、慈悲深い神ならハチの幼虫が青虫の生きた身体を食べるようには仕組まれなかっただろう、と言ったのと同じ議論である。

私の車の一部が故障することがあるからといって、この車がデザインされたものでないということにはならない。またこれをもってフォード社が悪だということにもならない。もちろんアヴァイズは「愛に満ちた全能の」何ものかを告発しているのであって、フォードとそれは一緒にはできない。しかし『ヨブ記』から始まって、歴史を通 じて哲学者や神学者たちは悪の問題と取り組んできた。私は神学者ではないので、こういう問題を正しく評価することはできない。しかしアヴァイズもまた神学者ではない。悪の問題をめぐって彼が一冊の本を書いたにもかかわらず、彼はこれら哲学的議論にかかわろうとさえしていない。

最低限言えることは、もしあなたが、ある遺伝病(trimethylaminuria, p.64)のために悪臭のする人たちがいるからには、眼はダーウィン的プロセスでできたに違いないと考えるような人であれば、これはまさにあなた向きの本だということである。また人によっては、オックスフォード大学出版の学問水準も格段に落ちたものだと結論する人もあるかもしれない。

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