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あの忌まわしいニセ胚の絵再訪

Casey Luskin
June 17, 2010

ほんの数年前、NCSE(全米科学教育センター)の前代表Nick Matzkeは、ヘッケルの胚の絵を教科書に用いることを批判すると、それは「でっち上げのスキャンダル」(manufactured scandal、つまりID側の陰謀)だと言った。しかし一方で、科学の様々な主導的権威――ネオ・ダーウィニズムの唱道者たち――が、生物学教科書にこれらの絵を用いて胚発生学を進化の証拠とすることを批判してきた。ではこれら権威者たちは、この「スキャンダル」を「でっち上げる」大陰謀に加担しているのだろうか? このあたりの事情はどうなっているのだろうか。

「個体発生は系統発生を繰り返す」といった時代遅れの観念が(少なくとも2010年には)新しい教科書からほぼ完全に除かれ、多くの(すべてではないが)新しい教科書は偽造された絵の代わりに胚の写 真を用いていることは事実だが、最近の教科書と科学者共同体内部での権威者からの批判を併せ検討してみると、どのようにして胚発生を進化の証拠として教科書で利用するかが、依然として深刻な問題であることがわかる。この領域での積極的な教科書修正の多くは、ジョナサン・ウエルズなどのダーウィン懐疑派の科学者たちが、教科書の諸々の間違いを暴いたことによるものであることを、銘記しておかなければならない。

私自身、今日使われている進化論支持の教科書が、いまだに誤って胚発生の証拠を示すために、ヘッケルの詐欺的な胚の絵を利用していると単純に事実を述べたために、これまでかなり厳しい攻撃にさらされてきた。私を攻撃する人々に中には、考え方を改めようとはさらさら思わない人たちがいることはわかっているが、次に2回に分けて掲載する私の最近の論文The Constitutionality and Pedagogical Benefits of Teaching Evolution Scientifically(進化を科学的に教えることの合憲性と教育的利点、University of St. Thomas Journal of Law & Public Policy)は、開かれた心をもつ読者を納得させるだろうと期待している。


 

あの忌まわしい胚の絵

2008年8月、ニューヨーク・タイムズは、19世紀の胚発生学者エルンスト・ヘッケルの「長く疑惑の対象とされてきた」脊椎動物の胚の絵は、「過去20年間」教科書に使われてはいないと主張するNCSEの資料をそのまま使った。長く教科書に用いられてきたヘッケルの絵が詐欺的なものであるという事実は、根本的に反論の余地がない。実のところは、進化論を推進するためにヘッケルの絵をそのまま使う多くの生物教科書が、最近20年間もずっと継続して使われていたのである

Natural History 2000年3月号の論文で、スティーヴン・J・グールドは、ヘッケルの絵が脊椎動物の胚の間の初期段階の違いを詐欺的に曖昧にしているだけでなく、それらが不当にも教科書に用いられていることを認めた(Stephen J. Gould, “Abscheulich!” (Atrocious!))――

ヘッケルは観念化と省略によって相似点を誇張していた。彼はまたある場合には―― 詐欺としか言いようのない手順を用いて――繰り返し同じ図をコピーして使った。発生初期のある段階においては、各種脊椎動物の胚が、少なくとも人間の目で容易く観察される大まかな解剖学的特徴においては、そこから発達した成体の亀や鶏や牛や人間よりも、確かにより似通 って見える。しかしこれら初期の胚でも、ヘッケルの図が示しているよりは、はるかに確実に相互に異なっている。その上ヘッケルの絵は、決して専門の発生学者をたぶらかすことはできなかった。彼らは初めから彼の偽造をちゃんと見抜いていた。

この時点で、比較的正直な実話として、単純な道徳的教訓さえ帯びていた話が、人間という最も妙ちきりんな霊長類の手練手管にかかって、かなり複雑な話に変わっていく。ヘッケルの絵は、その著しいごまかしにもかかわらず、すべての疑似科学的文献の中でも最も犯すべからざる永遠不変のものとして、標準的な学生用生物教科書に収まることになったのである。このヘッケルの絵が、19世紀の教科書に載ることになったことについては驚くほどでないかもしれないが、この同じ絵が、大多数ではないにしても多くの現代の生物教科書にまで存続することになった、一世紀に及ぶ使い回しの無神経さについては、我々は驚くとともに、恥じ入るべき十分な理由をもつであろう。

グールドはまた、(胚の正確な写真を発表した)発生学者マイケル・K・リチャードソンの、 ヘッケルの絵が教科書に広く用いられるようになったことについての言葉を引用している。

もしそれだけ多くの歴史家が[ヘッケルの偽造絵についての]古くからの論争を知っているのだとしたら、なぜ彼らはこの情報を、ヘッケルの絵を教科書に用いる多くの同時代の著者たちに伝えなかったのだろうか? 私はこれらの絵を無批判に用いている少なくとも50種の最近の生物学教科書を知っている。私はこれこそ、この話全体から発する最も由々しい問題だと思う。

同じように、Haeckel's Embryos: Fraud Rediscovered(ヘッケルの胚――詐欺再発見)と題する1997年のサイエンス誌論文(Elizabeth Pennisi)は、「何世代にも及ぶ生物学を学ぶ学生が、123年前にドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルの発表した有名な一連の胚の絵によって、誤って導かれてきたかもしれない。これらの絵は、異なった脊椎動物の胚が同じ発生段階を通 過するかのように描いている。しかしこれが与える、各胚が全く同じであるかのような印象は間違ったものである」と述べている。この論文はリチャードソンの、「これは生物学における最も有名な偽造(fake)の一つということになりそうだ」という言葉を引いている。

また別の雑誌Anatomy and Embryologyで、リチャードソンら発生学者たちが、ヘッケルの詐欺(fraud)は進化論にも進化論教育にも、決して無視することのできない大きな影響を与えるものだと言っている――

ヘッケルの考えはやがて激しい批判を受けるようになった。彼の絵はまた非常に不正 確で、胚の間の相似性を誇張し、違いを示そうとはしない(Sedgwick 1894; Richardson 1995; Raff 1996)。セジウィックは、非常に近い関係の脊椎動物でも、すべての発生段階で区別 が可能であること、しかしそれらを区別する特徴は、必ずしも成体の区別 として用いられるものでないことを指摘している。…この研究から見えてくるもう一つの点は、ヘッケルの有名な図の著しい不正確さである。これらの絵はいまだに教科書や批評論文などに広く再使用されており、この分野の考え方の発達に重要な影響を及ぼしている。

(詳しい引用文献の注があるが省略――訳者)

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