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ゾンビ遺伝子?

Jonathan Wells
August 24, 2040

8月19日、 Gina Kolataはニューヨーク・タイムズに、遺伝学者たちは「死んだ遺伝子が生き返り病気を引き起こすのを見た」という記事を書いた。

コラータによれば、人間ゲノムは「数十万年も遡るある種の化石である死んだ遺伝子に満ちており、これらは壊れた無用のガラクタで一杯のゲノム上の屋根裏部屋に相当するもの」だが、その遺伝子のあるものは「ゾンビのように死者の中から蘇ることができる」のだそうだ。

ところで、ある仮定の「ゾンビ遺伝子」が、ある種の筋ジストロフィー(FSHDと略称される)――2万人に1人の割合で発症する遺伝病――の中に紛れ込んでいる。

コラータはある最近のサイエンス誌の論文を引用しているが、この論文は最初に、1990年代から始まり、FSHDとヒト染色体4のある特定の領域の間の関連性を確立した仕事を概説している。この領域には“D4Z4”DNAの多数の繰り返しが含まれており、11かそれ以上の反復をもつ人々は正常だが、1から10の反復しかない人々はFSHDを発症しやすい。

生物学者たちは以前には、D4Z4 DNAは、RNAに転写もされず、タンパク質に翻訳もされないと考えていた。言い換えると、D4Z4は生物学的に不活性で、ある人々が「ジャンクDNA」と呼んでいるものと考えられていた。しかし最近になって、研究者たちは、D4Z4 DNAは転写され、その一部は1つのタンパク質DUX4に翻訳されることを発見した。

このサイエンス論文は、DUX4がFSHDの原因であり、11より少ないD4Z4の反復をもつ人々はDUX4をより安定的に(したがってより有毒に)するという仮説を提出している。しかしこのサイエンス論文は、「死んだ遺伝子」が生き返るというようなことは何も言っていない。

そこでコラータが引用しているのは、国立神経障害・発症研究所のDr. Kenneth Fischbeckで、この人は彼女に、FSHDは「染色体4の先端にくっついた古代の遺伝子によるものだが、この遺伝子は死んでいて、これが発現したという証拠はない」と語ったという。MITの遺伝学者Dr. David Housmanは、「この死んだ遺伝子をオフにする」ことによってFSHDを治療することが可能かもしれないと言っている。国立衛生研究所(NIH)長のDr. Francis Collinsは、この発見に驚きを表明して、「病気が起こるメカニズムとしてこの種のことに行き当たるとは――私は誰も予想していなかったと思う」と言った。コリンズによれば、「ゲノムの最大の驚異のコレクションを作るつもりなら、これこそそこに入るべきものだ。」

しかしフィッシュマンやハウスマンやコラータは、いったいどうして、D4Z4ないしDUX4がかつては死んでいて、それがごく最近、生きて機能するようになったのだと分かるのだろうか?

きっぱり言えば、彼らにそんなことはわからない。

古代の生物のDNAが機能したか、しなかったかを決定する方法は、せいぜいのところ、生きた生物のDNAを比較するしかない。ネオダーウィニズムの論理に従えば、ランダムな変異は、もしそれが自然選択によって除かれなければDNA配列の中に蓄積する。しかし自然選択はある機能を残すためか除くためにしか働かないから、機能しないDNA配列に影響を及ぼすことはできない。もし2つの現代の種が、遠い昔の共通 祖先から機能しないDNA配列を受け継いだとすれば、対応する配列は自然選択によって影響を受けることなく、それらはその子孫においては蓄積された変異によって、非常に異なったものとなっているであろう。この論理は逆にすることができる。すなわち、もし現代の2つの種の対応する配列が非常に似ていれば、ネオダーウィニズムから言えば、自然選択はその配列を、機能するからこそ「保存した」のだと言える――たとえその機能が何であるかわからないとしても。

2007年に、イギリスの遺伝学者たちが、人間と他の霊長類のD4Z4とDUX4の配列を、マウス、ラット、象のそれと比較した。彼らは、この配列はこれらの哺乳類の間では保存されていることを発見し、このことは「D4Z4にコード機能があることの強力な証拠」だと結論した。人間とネズミは1億年も前に共通 の祖先から分かれたことになっているから、証拠によれば、D4Z4は少なくともその期間は機能をもっていたことになる。

言い換えれば、全く別のところからくる証拠に照らしても、「死んだ遺伝子」というストーリーは成り立たない。

1930年代に、ダーウィン進化論がメンデルの遺伝理論と結びついたとき、その結果 生まれ「ネオダーウィニズム」が想定したのは、遺伝子は生物を形成する情報をもった代々遺伝する要素であり、したがって遺伝子の変異は、進化のための原材料となる新しい変種を生み出すことができる、というものであった。ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックが1953年にDNAの構造を発見したとき、彼らはネオダーウィニズムの分子的基礎と思われたものを提供した。すなわち、DNAからRNAへ、タンパク質へ、我々へという理論である。しかし分子生物学者たちが1960年代と70年代に、我々の遺伝子のほとんどがタンパク質をコードしていないことを発見したとき、ある人々はこのタンパク質をコードしないDNAを「ジャンク(ごみ、がらくた)」と呼んだ。

とりわけ人間ゲノムのほとんど半分を形成する、非-タンパク質コード-反復-DNAは、ゴミの山へと移行させられてしまった。2006年出版のThe Language of God: A Scientist Presents Evidence for Beliefで、コリンズは逆説的に、我々のDNA――特に「その約45%を占めるそのようなflotsam and jetsam(からくた、漂流物)をもった人間ゲノム」の反復部分――は神への信仰の証拠になるものでなく、反対にダーウィニズムの「有無を言わさぬ 」証拠となるものだと主張した。

R・ドーキンズ、ダグラス・フツイマ、マイケル・シャーマー、フィリップ・キッチャー、ケネス・ミラー、ジェリー・コイン、ジョン・アヴァイズらもまた、最近の刊行物で、人間ゲノムの多くは「ジャンクDNA」からなっており、これはダーウィン進化論の証拠となり、インテリジェント・デザインの反証となるものだと言っている。

しかし「ジャンクDNA」という考えは、生物学的証拠というより、ネオダーウィン理論が歴史的に歪曲したものを根拠にしている。実際現在では、コリンズ、ドーキンズ、フツイマ、シャーマー、キッチャー、ミラー、コイン、アヴァイズといった人々が、この点で完全に間違っていることを示す、大量 の、ますます増えていく証拠が存在する。これを私は近日刊行予定のThe Mystery of Junk DNAで論じた。

D4Z4とDUX4を、かつて死んでいたが今は生きている「ゾンビ遺伝子」だとするコラータの説明は、まったく根拠のないものである。

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