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人間ゲノム計画完了から10年を経て

ENV
November 12, 2010

Scientific Americanが最近、人間ゲノム計画が完了して10年たった今、何が起こっているかを報告している。2000年にその完了が宣言されたとき、多くの科学者が、これは病気の理解と発達する治療法にとって鍵になるだろうと言った。しかし10年を経た今、そうはなっていない。人間ゲノム計画は、よりすぐれた研究と技術、特に我々の遺伝子配列読み取りの能力の発達に貢献した。それはまた、我々がかつて「ジャンクDNA」と考えていたものの多くが全くジャンク(ごみ)ではないことを明らかにした[リンク4つ]。しかし科学者たちは、病気の性質についての彼らのモデルや仮定が間違っていたかもしれないという、醒めた結論に達しつつある。

どうやら病気の鍵は、必ずしも遺伝子コードの共通 の異型(variants)に見出されるものではないようだ。新しい研究は、現在行われている病気の見方が偏狭すぎるかもしれないことを証明しつつある。Cell 2010年4月号に発表され、論争を引き起こした論文で、Jon McLellanとMary-Claire Kingは、「複雑な人間の病気は実は、個人的にまれな、私的と言ってもよい条件の積み重なったもの」と示唆している。彼らの研究は、他のいくつかの研究とともに、病気を引き起こすには多くのファクターが働いていると示唆する。ある個人が、同じ病気を共有する他の人たちと同じ塩基対変異をもつからといって、この1つの変異が、病気の深刻な症状の原因になるとは限らない。逆に、ある個人がある特定の変異を持たないからといって、その人がその病気にかからないというわけでもない。その病気を引き起こす複雑な他の要因があり得るのである。これらの要因は、環境的なものや、ゲノムの部分同士がどう相互作用をするかにかかわる「後成的」なものであり得る。

共通の変異が病気の原因を示すという考え方は、共通 異型仮説として知られ、長年にわたって遺伝学者の間で支配的な見方であった。サイエンティフィック・アメリカン誌の報告が示唆するように、共通 異型仮説の背後にある強い思い込みは、進化論的仮定に基づくものであった――

共通異型が病気を理解するのに役立つだろうという信念は、ある種の進化論的論理を もっていた。数万年前の古代人間の急速な人口爆発は、人間の遺伝子プールに多くの異型を「閉じ込めた」とLanderは言っている。想像されるのは、これらの共通 異型(「共通」とは通常、与えられた生物群の少なくとも5%に現れることを言う)はかなり発見しやすかっただろうということ、比較的少数の者たち(数人から1ダースくらい)が、高血圧、痴呆、その他共有される病気への我々のかかりやすさを形成しただろうということである。

マクレランとキングは、共通異型は、ある人たちが考える生物学的効果 を持たないかもしれないと示唆した最初の人ではない。サイエンティフィック・アメリカン誌は、1990年代にKenneth WeissとTerwilligerが、共通異型がもし実際に強力な害を及ぼしているとしたら、自然選択がとうにそれを排除しているだろうと言った事実を指摘している。彼らは、病気はまれな、それを誘発する多くの異型からくるのだと示唆した。不幸なことに、それは当時の一般 的な考え方でなく、彼らの議論は退けられた。

現在二つのグループに分かれて論争があり、一方は共通 異型仮説は依然として有効で遺伝子配列決定にもう少し時間がかかるだけだと言い、他方はこの仮説は完全な失敗であったと考えている。この論文は、前者からFrancis Collinsを引用している。コリンズは、科学者は「ほとんど1,000に上る共通 遺伝子異型が、病気の危険性に役割を果たしていると割り出しており、我々はすでにその情報に基づいて、糖尿病や癌や心臓病の新しい療法を開発するのに、見方をすっかり変えたのだ」と指摘している。その反対の例としては、タイプ2糖尿病についての研究があり、そこでは遺伝学者たちはタイプ2に関係する18の共通 異型を発見しているが、これらの異型はタイプ2糖尿病の遺伝性のほんのわずかな部分(論文は6%と言っている)をしか説明しない。のみならずこれらの異型は「因果 生物学」の何ものを説明するものでもない。

結局すべての病気が、Tay Sachs病やCystic Fibrosis病のような、いくつかの間違った塩基対から起こるものではないということである。2000年のいくつかの報告は、人間ゲノムが、癌、アルツハイマー病、糖尿病、痴呆、その他多くの遺伝によると考えられる病気の治療法発見の鍵になるだろうと言っていた。しかし、今のところ科学者たちは、いくつかの病気の、治療法開発どころか、その遺伝標識(genetic marker)を同定できただけである。最近のBRCA1と BRCA2 の分析の目覚ましい進歩でさえ、すべての患者の胸や卵巣の癌の原因をピンポイントするわけではない。しかもマーカーをもつ人々が必ずしも胸や卵巣の癌を発症するわけではなく、このことは遺伝子か環境か、あるいはその両方か、いずれにせよ他の要因が、同じ病気に対して働いていることを意味する。これは遺伝学と病気に関する標準的想定に疑問を投げかけるものである。

この論文をさらに引用すると――

いくつかの勇敢な声が、人間生物学のウサギの穴は、DNA配列やタンパク質への焦 点が明らかにできるより、もっと深くまで達しているかもしれないことを示唆しつつある。伝統的遺伝学では、遺伝子の分子的複雑さと病気におけるそれらの役割を捉えるのは、不可能かもしれないと彼らは言っている。…もっと単純に言えば、遺伝子の定義そのものが――医学的に意味のある遺伝子は言うに及ばず――現在、その多層性をもつ複雑性に悩まされているのである。かつて直線的で一方向的な、遺伝子と形質の間の一対一の関係と思われていたものが、今は「遺伝型-表現型の問題」になってしまい、そこではDNAのタンパク質コード配列を知っても、それはある形質が現れる仕組みのほんの一部を説明するだけなのである。(強調引用者)

この論文はさらに、1つの遺伝子がその近辺のある異型に依存しているかもしれない例をあげ、おそらく共通 の病気は、多重遺伝子異型の全体的効果によるのではないかと言っている。これは後成的要因の研究の背後にある考え方で、インテリジェント・デザイン共同体の内部では、多くの研究者がすでに関心を向けていたものである。

還元主義的・ネオダーウィン的な人間ゲノムの見方が、病気に関して説明力をもつとは思えない。科学者のある者たちは、同じDNA配列をもつということは、全体としての生物が同じであることを意味するという前提に立ち、これを種の間の進化的関係や、人間の他の動物との違いのなさを論証するのに用いてきたが、人間ゲノム計画に1億3,800万ドルを費やしたあげく、この前提が治療法より袋小路に行きついたことが、今はっきりわかってきたのである。

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