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唯物論者は注目せよ――生物起源についての厳密に科学的な、非唯物論的観点を擁護する論文集The First Gene

Casey Luskin
November 17, 2011

「インテリジェント・デザイン」という言葉を実質的に用いることなく、「特定された複雑性」について論ずることもなく、「還元不能の複雑性」をもほとんど口にしない本が、生物学におけるデザインや目的論を支持する議論を展開することができるのだろうか?

「遺伝子出現プロジェクト」主任David L.Abelの編集した新しい学術書The First Gene(最初の遺伝子)は、この質問に対する答えが「イエス」であることを示している。唯物論者はこの本が気に入らないだろう。なぜならここでの議論は百パーセント科学的で、宗教的・政治的・文化的関心は一切なく、最も重要なことに説得力をもつからである。

The First Geneの議論は、「原始生物記号論」とか「原始生物サイバネティックス」といったものに根を下ろしていて、これはエイベルによると次のような質問に答えるものだという――

どうして、ただ質量/エネルギーが相互作用するだけの生命以前の自然環境が、意味のある機能するメッセージを生み出すことができたのか? どうして偶然と必然が、暗号解読に要求される恣意的ルールに従う受信者の、能力を処方することができたのか? どうして物理化学の法則が、言語に似た記号システムを分子に理解させ、最初の原始細胞内部でそのようなメッセージに反応させることができたのか?(p.xvi)

同じように、原始生物サイバネティックスという分野は、「しばしば無視されている、最初の理論上の原始細胞内部での、最初のコントロール・メカニズムの、“自然的過程”による発生を専門的に研究する分野」(p.1)である。したがってサブタイトルは、「プログラミング、メッセージ伝達、および形態コントロールの誕生」となっている。

形態コントロールがこの本の主たるテーマで、そこでは「強制のない選択」が、抽象的カテゴリーにはまる機能的目標を実現するのに用いられる。プラトン的イデアが、数学、言語、コンピューター計算において認められ、また非物質的な実体が存在し、それらの物理的形態から独立した意味をもつ。したがってエイベルの説明では、「これらの表象体(formalisms)はいずれも、すべてを物理的力学に還元しようとする従来の自然主義的世界観に包摂されるものではない。」(p.5) エイベルの見方では、そのような「表象体は、偶然生起自由性(chance contingency)あるいは必然性よりも、選択(=自由意志)生起自由性(choice contingency)によるものである。」(p.5) 生命はこの「表象体」を基につくられている。

The First Geneは、処方的情報、意味的情報、シャノン情報を含む、自然界に見出されるあらゆる種類の情報を研究している。処方的情報とは、我々の選択を指令する情報で、意味的情報の一形態であり、それはまた機能的情報の一種である。これに対してシャノン情報は、エイベルによれば「情報」とさえ呼べず、実のところ確かさの量 的還元であり、「形態の機能を処方したり生成する」のに何の役にも立たないものである。(p.11) デムスキーの情報保存の法則に具現しているような議論を用いて、エイベルは、「シャノン的不確かさは、外的ソースから能動的情報をこっそり取り入れないかぎり、これが進歩して機能的情報になることはできない」と言う。(p.12) しかし情報の最高形態は処方的情報である――

処方的情報(PI, Prescriptive Information)は直観的意味情報よりはるかに優れている。PIは未来の先取り、“意図をもつ選択”、連続的な正真正銘の決定結節(? successive bona fide decision nodes)でのアリストテレス的“目的機能”の丹念な追究を要求するものである。PIは、その目的点における形態機能を、単なる束縛(強制)でないコントロールを用いて、指令したり直接作ったりする。ここでもまたPIはどんな選択をすべきかを我々に教えるもの、またはすでになされた賢明な選択の記録表示である。(p.15)

エイベルの考えでは、処方的情報の起源を説明しようとすれば、「選択生起自由性」(いまだ存在していない潜在的機能の選択、最上のすでに存在する機能の選択ではない)が、偶然・必然とともに現実の基本的カテゴリーに含まれていなければならない。(p.25) 彼はさらに、「偶然と必然は形態コントロールを生み出すことはできない。偶然と必然は有用性を追求することはできない」と論じている。(p.263) また、

いかなる物的存在もそれ自体を「自己組織化」することはできない。結果 的存在は自分自身の原因となることはできない。組織化は、選択生起自由的決定論の結果 であって、物理力学的決定論や偶然の結果ではない。(p.264)

では処方的情報はどのようにして生ずるか? エイベルの説明では、「行為(作用)する者(agent)のみが、意味ある実用的な線的デジタルPIを書いたりプログラムしたりするものとして知られている。」(p.40) なぜなら「プログラミングが心の意図的選択なしになされ得ることを示すどんな経験的証拠も、合理的正当性も、参照例も示すことができないからである。」(p.78)

この本の寄稿者には、機能する生物学的情報を計測する類似の方法を展開するKirk DurstonやDavid Chuiなどがいる。彼らは3種類の情報を提示している――すなわち、ランダムな配列の複雑性(RSC)、秩序ある配列の複雑性(OSC)、および機能する配列の複雑性(FSC)で、RSCやOSCと異なるFSCの主たる特徴は、配列に機能のコントロールを持たせることである。(p.161) そこで彼らは多様なタンパク質族のFSCを計測し、機能するタンパク質配列がまれであることを論証している。彼らは「与えられたサイト数について、配列の全体のとるスペースに対する機能する配列のとるスペースの割合は、ほとんど無限に小さい」と考えている。(p.175)

化学者でコンピュータ科学者のDonald E. Johnson は、Probability’s Nature and Nature’s Probabilityの著者だが、原始細胞に要求される「最小限の再生とコントロール情報」について一章を書いている。彼は、「(エラー修復を含めて)自己保全することのできる健全な情報構造」など多くの要求項目をリストし、「燃料(酸化還元反応、熱、光子、など)を選択的に細胞に取り込み、この燃料を処理して、成長や繁殖、また中に入り込むことのできない必要とされる構成要素の製造、などのためのエネルギーを取り出せる、コントロールされた化学的代謝ネットワークが必要である」と言っている。(pp.413-415)

ジョンソンは、生命起源を説明する「RNAワールド」仮説も、「代謝先行シナリオ」も批判している。RNAワールド仮説は、「機能するRNAの偶然による形成の実行不可能性」という欠点があるという。(p.405)一方、代謝先行シナリオは、生命らしい再生を達成することができず、複雑な化学触媒は初期の地球環境では起こりそうもない。問題は、とジョンソンは説明する、「無生の自然」が生命に見られる「これらの問題とオペレーション・システムを書く」ことはできないこと(pp.407-408)、「コードされた情報は決して物理的に生じることはない」(p.408)ということである。

The First Geneを一読して、いくつかの生命のための最小限の理論的・現実的要求項目が浮かび上がる――

・高レベルの処方的情報
・プログラミング
・記号システムと言語
・この情報とプログラミングを運ぶことのできる分子
・きわめて確率の低い機能する情報の配列
・形態的機能
・さまざまなオプションから「選択」し、未来の機能を選び出し、これら生命のための要求を実体化することのできる「心の意図的選択」の可能な「行為(作用)者」

この記事の始めに提起した質問に戻ろう――IDに言及することのない本が、デザインや目的論を支持する議論を展開することができるだろうか?

ID陰謀説を言いふらす反ID論者たちは、「あのうるさいクリエーショニストどもは、いつも使う言葉を変えて政教分離原則を避けようとしている」というのが好きである。IDの知的な由緒正しさがその非難をはねのけるが、The First Geneは、そうした非難がなぜまともに受け取るべきものでないかの、更なる理由を付加するものである。この本は、情報の性質、情報処理、そして生物学的機能性についての、高度に専門的な、厳密に科学的な議論を提供している。ざっとこの本に眼を走らせただけでも、その寄稿者たちが正しい科学をすることだけを考えているのがわかる。そしてこの科学は、盲目的で導かれない物的原因が、生命に見られる複雑さを生み出すことはできないと、彼らに分からせることだろう。最初の生命を生み出すためには、選択をすることのできる何らかの行為(作用)者が必要なのである。

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